馳星周著「少年と犬」
今回紹介するのは馳星周著の「少年と犬」だ。
本屋で本書を見かけたとき、ジャケットのシェパード?の愛らしい絵に引かれた。さらっと裏表紙のあらすじを見て、様々な人間と犬の絆が描かれた小説だということが想像できた。自分も昔、犬を飼っていたことがある。それはもう家庭にたくさん笑顔を運んでくれる大事な家族だったし、別れのときはたくさん涙を流した。命の尊さを教えてくれた。もう10年以上前のことで、今では犬や猫などペットは飼うのではなくYoutubeやSNSで見て、癒されているのが現状だ。
今一度改めて、犬や猫などのペットなどと暮らすこと、寄り添ってくれる動物たちの不思議な力、それを受け取る人間の心の変化、これらに触れてみたく、本書を読んでみた次第だ。
なおこのブログではなるべくネタバレは控えめに感想を書いていこうと思うので、気になった方は是非本を読んでみてもらいたい。

この本はどんな人におすすめ?
このブログを読むと何がわかる?
あらすじ 「犬と様々な境遇の人間たちとの出会い 南を見つめる犬」
本書に登場する犬は一匹だ。シェパードと和犬の雑種。未だ震災の爪痕残る仙台にこの犬はどこからか現れる。犬は様々な登場人物に出会い、別れを繰り返すことで章が進んでいく。出会う人の境遇は本当に様々。家族のために犯罪に手を染めてしまった青年。離婚寸前の仲の悪い夫婦。事故で家族と体の一部を失い、人生に絶望した少女。
犬は賢く、どんな人にも「元からあなたに飼われてましたよ?」と言わんばかりのたちふるまい、無垢な感情を振りまく。散歩は誰が相手でもリードを合わせて歩き、ジャーキーを持って行けばわかりやすく尻尾を振って喜び、心が傷ついた人にはそっと寄り添っていつまでもそばにいてくれる。まるでずっと最初からいた大切な家族のようだ。出逢う人々は必ずこの犬の振る舞いに心を癒され、空虚だった、はたまた絶望の人生に明かりが灯っていく。
ただその犬は、どんな人にも愛情を振りまいてくれる一方で、いつも南側を見つめている。登場人物は皆、この犬に触れて自ずと気づく。「この犬は南側に行きたがっている」と、、、
感想「犬(動物)が持つ力 寄り添うということ まっすぐに感情を伝えるということ」
本書を読んでいて強く感じたのはこの犬が持っている不思議な力だ。犬は各章で様々な境遇の人に出逢うが、最初はいつも痩せこけて、時には怪我をした状態で現れる。登場人物は皆、そんな犬の姿に哀れんで、犬を助け、家族として迎え入れてくれる。だがその後すぐ、犬は「助けられる側」から「助ける側」に移る。登場人物は皆人生に悩み、絶望した人々ばかりだ。犬はそんな人たちを澄んだ瞳で見つめ、言葉が通じないなりに尻尾や行動で感情を表現してくれる。山奥を一緒に駆けるときは嬉しそうに笑顔を浮かべ、ジャーキーをもらえるとわかれば一心に尻尾を振って喜びを表現し、落ち込む人には体をこすりつけたり顎をのせたりして寄り添ってくれる。飼い主の敵だと判断するものがあれば味方になって吠えてくれる。登場人物は皆、犬が自分に純粋無垢な愛情を向けてくれることに、傷ついた心が癒されていく。もちろんこれは人間が犬の行動を見て勝手に決めた自己解釈である側面は否定できない。でも、それだけでは説明できないような「愛情」がその犬からは感じ取れるのだ。
我々人間が別種の動物との意思疎通を図ろうとするのなら、その伝達手段は行動から読み取るしかない。でもそれ故に、その伝達はとてもシンプルでストレートなものになりやすい。嬉しいから尻尾を振る、散歩に行きたいからリードを持ってくる、心配だから一緒にいる。異種族だからこそ、犬だからこそできるシンプルな「愛情」表現を、我々人間が理解できたとき、それはきっと人間同士の意思疎通より強い思いとして感じ取ることができるのではないだろうか。本書の犬はどんな境遇の人にも等しく、平等に感情を向けてくれる。その感情が、複雑に悩んで固まった人間の心を優しく包んでくれるのだ。生物として高度に発達した頭脳を持つ人間同士では、案外このように簡単にはいかないのかもしれない。シンプルなやりとりしかできない犬や動物だからこそできる、まっすぐな愛情表現が犬や動物の最大の力なのだ。そんな犬(動物)の力をありありと感じ取れる、心温まる作品であった。
まとめ
馳星周著の「少年と犬」は凍てついた人間の心を溶かす、犬(動物)の力がとても感じ取れる作品であった。どんな人間にも分け隔てなく愛情を向けてくれる不思議な犬。その犬はいつも南を向いている。南に行きたがっている。物語が進むにつれて犬はたくさんの人に寄り添う一方で、徐々に徐々に南へ進んでいく。南には何があるのか。犬が南に向かう理由は本書の最終章で明らかになる。ぜひ本書を読んで犬の優しくて、従順で、真っ直ぐな思いに触れてもらいたい。

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